クリスマス、などという行事は、カミュにとって最もくだらないと思える日本の行事の一つだった。クリスチャンでもないというのに一ヶ月前から大げさに騒ぎ立て、街はそれ一色の装いとなる。仕事帰り、道脇に飾り付けられた色とりどりのイルミネーションを見ながら、日本人というのは実に呑気な民族だ、とカミュは呆れたように溜息をついた。
 そういうわけで、クリスマスに仕事で何かをすることはあっても、プライベートで特に意識することはなかったのだが、今年は違った。二週間ほど前の夕食時、きらきらと目を輝かせながらカミュに語る後輩の姿が、脳裏に蘇る。
「カミュ、今日の帰り街を歩いていたら、とてもキレイな明かりが灯っていました!」
「そうか」
 クリスマスのイルミネーションのことだと察しはついたが、特に興味もないので流しておく。そんなカミュの反応にはもう慣れているのか、セシルはお構いなしに一人でその美しさをしみじみと噛み締め始めた。カミュはスプーンで温かいボルシチをすくいながら、一向に手を付けようとしないセシルをたしなめる。
「愛島、さっさと食べないと冷めてしまうではないか」
「でも……ワタシ、熱いもの、食べられない。だから、わざと冷ましている」
「冷めるとまずくなるのは常識だろう。貴様、俺の作ったものをわざわざまずくして食べるなど、一体どういう嫌味のつもりだ」
「そ、それは、仕方のないこと! ワタシは猫舌なのです、だから……」
 カミュは不満げに鼻を鳴らすと、目を伏せ、すくったボルシチを口に入れた。セシルは慌てたような表情をして、カミュの様子を窺っている。
「……その、カミュ、あの」
「何だ」
 僅かに視線を上げてやると、セシルが躊躇うように指先でスプーンに触れながら言った。
「カミュが……『ふーふー』してくれたら、きっと、食べられます」
「何だと?」
 声に鋭さが増す。一瞬怯えたように身体をすくませたセシルも、一度口にしてしまったからにはもう引っ込みがつかないと思ったのだろう、今度はよりはっきりとした声で言った。
「カミュ、『ふーふー』、してください! そうしたらワタシも、カミュのボルシチをおいしく食べられる」
「き、さま、何を言い出すかと思えば……!」
 スプーンを握ったままの拳が震えた。目を細め鋭い視線で威嚇しても、もう効果はないらしい。セシルはこうなると絶対に退かないのだ。それはこれまで寝食を共にしてきたカミュが、誰よりも一番よく知っている。
 カミュは自棄になって、先程の優雅な仕草とは打って変わって荒々しくスプーンをボルシチの中に突っ込んだ。このままスプーンをセシルに押しつけ、自分で食べろと言いたくなったが、きっとセシルは頑なに受け取ることを拒否するのだろう。どうあってもカミュの手から以外では口にしないつもりだ。
 忌々しい、とカミュは舌打ちした。けれども結局は折れてセシルの言うことを聞いてしまうという自分の哀しい性分も、カミュはよく承知していた。
 ふう、と白いボルシチに優しく息を吹きかけてやる。これくらいのことで温度以外の何がどう変わるとも思えないが、セシルが途端に瞳を輝かせ始めたのが分かった。そうして呑気に口を開ける。早く入れてくれ、とでも言いたげに。
 先輩のことを一体何だと思っているのだろうか。カミュは苛立ちを感じながら、セシルの口にスプーンを差し入れた。
「ん、む……」
 スプーンにセシルの舌が絡む感覚。スプーンを早く引き抜いてしまいたいというカミュの思惑とは裏腹に、セシルはしつこくまとわりついてスプーンを離そうとしなかった。ようやく引き抜くと、セシルは味わうようにゆっくりと咀嚼し呑み込んだ。そうして、とても幸せそうな顔を見せる。
「とてもおいしい! まろやかな舌触り、トマトの風味……素晴らしいです」
「ふん。俺の料理に、文句など付けられるはずがない」
「カミュ、もう一杯、欲しいです」
「調子に乗るな」
 そう言って睨み付けても、セシルは上機嫌のままだった。その表情を嫌とは思わない、むしろ少し温かい気持ちを感じるようになってしまった自分から目を逸らしたくて、カミュは再びボルシチをすくい、今度は自分の口に入れた。同じもののはずなのに、先程よりもまろやかな味わいに感じられたのは、きっと気のせいだと思いたい――カミュは溜息をついて、目を閉じた。


 余計なことまで思い出してしまったことに思わず身震いしつつ、カミュは人々で賑わうショッピングモールを歩いていた。
 あの日から数日後、セシルは部屋で浮かれたように鼻歌を歌っていた。もうすぐ、楽しみ――そんな単語が断片的に聞こえてきたことを思い出す。きっとクリスマスのことを言っているのだろうと推測した。セシルは日本に来て三年目になるのだという。いくら日本文化に疎いセシルといえど、クリスマスというイベントのこと自体は把握しているに違いない。
 だからこそ、カミュは仕事帰りにショッピングモールまでやって来たのだ。セシルに渡すクリスマスプレゼントを選ぶという、実に不本意なことのために。
「……全く」
 本来ならばこのようなことは絶対にしないのだが、万が一セシルがカミュ宛のプレゼントを用意していたとして、自分だけ受け取って渡さないのは礼儀に反するし、何よりセシルに借りを作ってしまうことになる。それだけは避けたいと、カミュはプレゼントを選ぶことにした、のだが。
「毛糸の帽子、か……奴は砂漠育ちのせいか、最近はいつも寒そうにしているからな……」
 頭頂部にぼんぼんの付いた灰色の可愛らしい帽子を手に取って、カミュは眺め回す。その後で、隣に並べられていた手袋に目が行った。
「ふむ、こちらは手袋か。これも悪くはない、か」
 最初は全く気が進まなかったというのに、気付けば次々と商品を手に取ってしまっている自分がいた。思わず頬が緩んでしまったことに気付き、慌ててしかめ面をする。知り合いがいるわけでもないのに、この居心地の悪さはなんだろうと考えた。セシルが自分に好意を寄せてくれていることを知り、そして自分もどうやら同じような感情を抱いているらしいと悟った後も、こういった思考と感情にはどうしても慣れることができない。
 先程似合うだろうと目を付けた帽子と手袋を買い、包装してもらって、カミュは早々にその場から立ち去った。これ以上ここにいたら、余計なことを考えてしまいそうだった。


 そうしてやって来た、クリスマスイブの当日。
 残念ながら朝起きた時に雪は降っていなかったが、テレビから聞こえてきた天気予報によると、夜は気温が下がり、ちらつき始めるかもしれないのだという。朝食に添えられた牛乳を飲むセシルを横目で見ながら、きっとこいつは雪を見ると子どものようにはしゃぐのだろうな、と思うと、カミュの口から自然に呆れたような溜息が洩れた。けれどその直後、何故か頬が緩み始めてしまい、カミュは慌てて引き締めた。
 朝食を終えた後、セシルは自分の部屋とリビングを行ったり来たりし始めた。リビングに置かれていた私物を部屋に持ち込んでいるようだった。
 そっと遠くから様子を伺うと、セシルは何故か部屋で荷造りをしていた。単に街に出掛けるにしては荷物の量が多すぎる。カミュが怪訝に思い尋ねると、セシルの口からは意外な答えが返ってきた。
「今日の夜、日本を発ちます」
「な……!」
 カミュは絶句して動けなくなった。今度はセシルの方が怪訝そうな顔をして、カミュを覗き込んでくる。
「カミュ? 一体どうしたのですか?」
「き……貴様、俺は何も聞いていないぞ。どういうことだ」
 しどろもどろになりながら問い詰めると、セシルは笑顔であっさりと答えた。
「国に帰るのです。年末年始は、家族で過ごす大切な時間。ワタシは日本に来てからも、この期間だけはサオトメに許可をもらって、アグナパレスに帰ることにしているのです」
 全く知らなかった。今日の夜ということは、カミュが仕事を終えて帰る時間には、セシルはもう既に日本にはいないことになる。念のため、カミュはおそるおそる尋ねた。
「愛島、クリスマス……というものを知っているか?」
「もちろん。でも、ワタシはクリスチャンじゃない。だから、関係のないことです」
 恐れていた答えが返ってきて、カミュは頭を抱えそうになった。セシルはきっとクリスマスを日本で過ごしたことがないのだ。その日を過ごしていれば、クリスチャンではない者も、日本にいればほぼ全員が嫌でも意識し、参加することになるイベントだと分かるはずだ。イベントの好きなセシルが、こうした行事を嫌い参加しない理由が、“知らない”という以外にどこにも見当たらない。
 そこでカミュははっとした。もうすぐ、楽しみ、と言っていたのは、クリスマスのことではなく、今回の帰省のことだったのだと――全て、自分の勘違いで早とちりだったのだと。
 ふつふつと怒りが湧いてきて、カミュは眉間に皺を寄せ、思わず拳を握り締めていた。この怒りはセシルに対するものではない。気付けなかった自分の迂闊さに対するものだ。それでも険しい表情を見て不安になったのだろう、セシルが躊躇いがちに、様子を窺うようにこちらを見つめてくるのが分かった。
「カミュ、一体どうしたのですか……?」
「っ……貴様に心配されるようなことではない!」
 思わず激しくはね除けてしまい、しまったと思ったが後の祭り。セシルが悲しそうな顔でこちらを見て、カミュは後悔した。自分の寝室に置かれているプレゼントを思い浮かべ、更に心が痛む。楽しみながらプレゼントを選んでいた自分は一体何だったのだ。この虚しさは一体何か。
 セシルが渡してきたらこちらも仕方なくといった体で渡すつもりでいたから、自分から積極的に渡すことなど微塵も考えていなかった。セシルがクリスマスを知らない以上、当然プレゼントも用意しているはずがない。見返りを期待しているわけではないが、これではまるで独り相撲だ。
 カミュはセシルに背を向けた。セシルが慌てたように声を掛けてくる。
「カミュ!」
 だが、カミュは振り返らなかった。苦々しい思いを抱えたまま、玄関を出る。これ以上あの空間にいることは、息苦しくて耐えられなかった。


 そのまま雑誌の取材の待ち合わせ場所に向かい、写真の撮影を終えた後、次の仕事をこなすべくテレビ局に向かう。バラエティ番組の収録を終えた頃には、既に夜になっていた。
 腕時計を見れば、針は九時過ぎを指していた。もうセシルはとっくに日本を発っている頃だろう。そう思うと、何故か胸の奥がずきんと痛んだ。結局気まずいまま別れてしまい、もう来年になるまでセシルの顔を見られなくなるのだと思うと、カミュの心に様々な感情が込み上げた。
 その思いが一気に喉から溢れ出してしまいそうになり、慌てて口を手で覆う。一人の楽屋とはいえ、誰かが外で聞き耳を立てているかもしれないし、監視カメラを付けられている可能性もある。何が起こるか分からない、この世界はそういう世界なのだ。カミュは努めて冷静な表情を保ち、さっさと楽屋を出て帰路につくことにした。
 テレビ局の外に出て、最初に目に付いたのは眩しいほどのイルミネーションでも街を歩くカップルたちでもなかった。
「雪……」
 故郷にいた頃は飽きるほど見ていたものなのに、こんなにも新鮮に感じられるのは何故だろう。雪のちらつく闇夜にふと、柔らかく笑う少年の顔が浮かんだ。カミュの心が和んだのも一瞬、その表情は傷ついたものへと変わっていく。カミュを寂しそうな目で見て、すっと顔を背けてしまった。引き留めようと手を伸ばしかけ、それが自分の見ている幻だと我に返ったカミュは、表情を殺して夜の街を歩き始めた。
 寒さには慣れているが、それでも寒いと感じなくなるわけではない。コートの隙間から入り込む風に身震いし、また、それを普段以上に忌々しく思った。
 ――けれど、本当に忌々しいのは風などではない。自分自身だ。
「何故こんなことに……」
 こんなに後悔する羽目になるなら、自分のつまらぬプライドなどかなぐり捨ててセシルにクリスマスの説明をすれば良かった。素直にこれがお前へのプレゼントだと言ってあれを渡せば良かった。心の奥に閉じ込めて見ないふりをしていた後悔の念が、次から次へと溢れ出た。
 年内最後くらい、笑顔で故郷に送り出してやれば良かった。アグナパレスに帰るのに、土産の一つでも渡してやれば良かった。セシルが笑って新年を迎えられるように、ただそれだけを考えて、セシルに色んなことをしてやって――
 カミュは思わず走り出していた。このままとろとろと歩いていたら、抑えきれない後悔がとめどなく溢れて自分の精神を呑み込んでしまいそうだった。


 部屋の前まで帰ってきて、カミュは鍵を差し込んだ。そこで、異変に気付く。
「鍵が……かかっていない、だと?」
 まさかセシルが戸締まりを忘れて行ってしまったのだろうか。そう考えて、カミュはいいやと首を振る。一緒に住み始めた当初、一度そんなことがあってこっぴどく叱りつけたこともあったが、最近は忘れずきちんと戸締まりをする習慣がついていたはずだ。
 もしかしたら、セシル以外の誰かが中にいるのかもしれない。カミュは慎重に扉を開け、できるだけ足音を立てないようにしながら、中へと入っていった。
 リビングに続く扉を僅かに開け、中を覗く。と――そこには、信じられない人物がいた。
「愛島、貴様何故……!」
 カミュは慌ててリビングに入った。そこには既に日本を発っているはずのセシルがいて、テーブルで突っ伏して眠っていたのだ。
 起こそうと肩に手を置きかけたその時、セシルがむにゃむにゃと口を動かして寝言を言う。
「んん……カミュ……待って……」
 名を呼ばれ、一瞬伸ばしかけた手が止まる。それでも事情を聞かねばと、カミュは肩を揺すった。
「愛島。起きろ。起きろと言っている」
「ん……あ、カミュ……?」
 セシルはすぐに気付き、眠たげな目をこすりながら、ゆっくりと顔を上げた。
「貴様、一体何故ここにいる。今晩、アグナパレスに発つと言っていたのではなかったのか?」
「ああ、そのこと……」
 セシルはふわあと欠伸をし、伸びをした後、カミュを申し訳なさそうに上目遣いで見た。
「カミュ、その……ごめんなさい。ワタシ、知らなかった」
「一体何を……」
「クリスマスのことです。今日はクリスマスイブ。確かにクリスチャンではないけれど……日本人にとっては大切で、とても楽しい夜」
 カミュの心臓が跳ね上がった。セシルは目を伏せて続ける。
「今日、オトヤやナツキたちに聞いた。日本では、クリスマスは大切な人と過ごす日なのだと。そして、その大切な人にプレゼントを渡す日だ、とも」
 知ってしまったらしい。そしてわざわざ自分に謝るということは、今朝自分が怒っていた原因もそのせいだと感付いてしまったということだ。カミュは急に居心地の悪さを感じて、セシルから思わず視線を逸らした。
「ワタシ、慌てました。今からでも間に合うからと言われて、帰省は明日にすると従者には伝えました。そしてプレゼントを買ってきました。カミュに渡したくて……」
 セシルは顔を上げ、包装された小さな箱を取り出した。受け取ると、箱にはほんのりとセシルの温もりが残っていた。外の風にさらされていた寒さなど、一瞬で吹き飛んでしまいそうだった。
「開けてみてください」
「待て」
 セシルを制止し、その箱をテーブルの上に置いて、カミュは急いで自分の寝室に戻った。自分の選んだプレゼントを見た時、カミュは安堵して思わず頬を緩めて笑ってしまった。これが無駄にならなくて良かった。そう、心から思った。
 セシルのところへ戻り、予定通りそれを差し出す。
「貴様にもらわれっぱなしでは、礼儀に反するからな」
 そんな憎まれ口を叩いても、セシルは嫌そうな顔一つせず、心底嬉しそうに笑顔で受け取ってくれた。
「わぁ! とても嬉しい。カミュ、開けてもいいですか?」
「ああ、好きにしろ」
 そう言いながら、自分もセシルの渡してくれた小さな箱を手に取って、包装紙を丁寧にはがし始めた。セシルが先に包みを解いて、わぁ、と再び感嘆の声を上げる。
「これ、とても暖かそう! 帽子と手袋、どちらも大切にします。カミュ、ありがとう」
「……貴様に寒そうな格好をされては、俺まで寒くなってしまうからな」
 素直な言葉が出てこない口が、今は少しだけ忌々しい。そうしているうちにカミュも箱を開けて、中を見た。その途端、カミュは目を丸くした。
「指輪?」
 取り出したシルバーリングは少々小さめのもので、闇夜にちらつく雪のように純粋な輝きを放っていた。セシルが微かに頬を赤く染めながら、説明する。
「プレゼントを買おうと思ってショッピングモールに行ったら、これが目に留まって……カミュが気に入るかどうかわかりませんが、きっと似合うと思ったから」
 カミュは黙ったまま、そっと指輪を左の小指に嵌めた。今の自分にはふさわしくないと思われるほどの、純粋で穢れなき輝き。それはあまりに眩しくて、自分の目は潰れてしまうのではないかと思ったほどだった。
 まるでセシルのようだ、とカミュは直感的に思った。セシルはいつだって、自分に純粋な瞳を向けてくる。その視線がつらいと感じるのは、きっと自分自身が素直な輝きを失ってしまったせいなのだろう。偽りで固めた言葉は、真に心に届きはしない。このシルバーリングを見ていると、セシルにそう言われているような気がした。
「……指輪を買う時は、相手にサイズを確かめてから買うものだ」
「あっ、ご、ごめんなさい。急だったから……」
「だが」
 申し訳なさそうに身体を縮こまらせるセシルに、カミュは僅かに頬を緩めて笑った。
「お前の気持ちは……確かに、受け取った」
「カミュ……!」
 セシルはぱあっと表情を輝かせ、カミュに抱き付いてきた。突然のことに慌てて受け止めながら、セシルをたしなめる。
「急に抱き付くなと、いつも言っているだろう」
「でも、嬉しくていてもたってもいられなかった。カミュ、大好きです。ワタシはアナタを愛している……」
 愛の言葉は気恥ずかしいが、いつもよりすんなりと心に入ってきたのは、今日が聖夜だからなのだろうか。
「……いつ、故郷に帰るのだ」
「明後日まで延ばしてもらいました。だから……」
 クリスマスは、アナタと一緒にいられる。
 そう告げかけたセシルの唇を、カミュは素早く奪った。自分も待っていられる余裕などないことに気付いた。セシルの柔らかな唇を食み、舌でなぞり絡める。
「ぁ、ふぁ、……あ、ん」
 微かな吐息さえも愛おしいものだと思うなんて、きっと自分は魔法にでもかかってどうかしてしまったに違いない。恋人達を狂わせる聖夜の魔法が、まさか自分にも効力を発揮するなんて。
「カミュ……息、苦しい、です」
「ならば、今日は息ができないようにしてやる」
 セシルは微かに頬を赤らめ神妙な表情をしたが、その瞳が期待に輝いているのを、カミュは見逃さなかった。
「貴様の望み通りにしてやろう、愛島」
 耳元でそう囁いて、カミュはセシルの手を取って寝室へと誘った。


メリークリスマス!不器用だけど一歩ずつ進んでいく二人が大好きです(2011.12.25)