気付いたらえろを書いていた……だって「2人縄跳びと絆創膏」のトラックがあまりにえろすぎるのが悪い(責任転嫁)(2011.10.30)
「――ああ、嫌いだとも」
セシルのエメラルドグリーンの瞳が、驚いたように見開かれる。その瞳が悲哀と絶望の色を帯びていくのを見ながら、カミュは忌々しげに舌打ちをした。
「俺の心を乱す貴様など……!」
セシルの口から何か言葉が洩れ出る前に、カミュは素早くその唇を奪っていた。セシルの無垢な薄桃色の皮膚を、食むようにして蹂躙する。思う存分そうした後、軽く突き放す。解放されたセシルの唇から吐息が洩れ出る。苦しげに肩を上下させる仕草さえも、今のカミュには苛立たしいものに感じられた。
「カミュ……」
どうして。微かに頬を上気させ、唇の動きだけでそう問うてきた後輩のそれを塞ぎ、カミュは何度も蹂躙を繰り返した。
シャイニング早乙女からのお達しで、セシルと共同生活するようになってから二ヶ月が経とうとしていた。
基本的に忠誠を誓ったシルクパレスの女王以外の人間に興味を持たないカミュにとって、セシルの面倒を見ろなどと言われたことは、社長命令とはいえ、この上なく煩わしいことだった。共同生活する前の懇親会でそれなりに距離が縮まったようには思えたものの、カミュは未だセシルに心を許してはいなかったし、それはどうやらセシルも同じようだった。
セシルはカミュの冗談すらも見抜けぬような垢抜けない素直さと、こうと決めたら最後まで動かない頑固さを持ち合わせた、カミュにとっては厄介な部類に入る人間だった。だが、カミュがどれだけ厳しいことを言っても、めげずについてくる根性はあった。歌唱力やアイドルとしての魅せ方も、まだ未熟な部分はあるが、その才能は誰もが認めるものだった。
そんな後輩と接するうち、自分も変わってしまったのか――基本的に任務のことしか考えてこなかったカミュの思考の中に、セシルの入り込む領域が徐々に増えていった。たまに我に返って、自嘲気味に笑う。それでも数分後にはセシルのことを考えている自分がいた。カミュは次第に、普段の彼の仕草にすら、いちいち目を配るようになってしまった。
例えば、夕食のスープを熱いと言いながら飲む姿。どうしても意見が譲れぬ時、唇を噛み締めながら、カミュを上目遣いで睨む姿。そうして激しく意見をぶつけ合った後も、練習が終われば素直にありがとうございました、と礼をする姿。その一つ一つが、カミュの頭に焼き付くようになった。思い返すたび奇妙な気分にとらわれて、カミュの心は乱されてしまう。
らしくない。そう思うのに、敢えて忌々しい言葉遣いをするなら、カミュはセシルに“夢中に”なっていた。
そんなある日。カミュが夜遅く仕事から戻ると、セシルは背を向けて、一人でリビングに佇んでいた。一通の手紙を、何度も何度も読み返している様子だった。ちらりと見えた封筒の独特な紋様から、それがセシルの故郷アグナパレスからのものであろうということは容易に想像がついた。
大方親兄弟から手紙をもらって、故郷に思いを馳せているのだろう。カミュがわざとらしく足音をさせると、セシルはびくりと肩を震わせて振り返り、慌てて手紙を背後に隠した。
「カミュ、いつからそこに……気付かなかった」
「俺が帰ったことにすら気付かぬとは、この愚民めが。一体何を読んでいた?」
「カ……カミュには、関係ない」
「ほう」
素直に故郷の人間からもらったと言えばいいのに――そう思った後で、カミュはふと思い出す。先日久しぶりに故郷に帰りたい、と呟いたセシルに向かって、ホームシックとはお子様だな、とからかったことがあったのだ。セシルはお子様と言われるのが不快らしく、頬を膨らませて黙り込んでしまった。だから故郷からの手紙を大切に読んでいた、などと言えば、またからかわれると無意識に警戒してしまったのだろう。
少し虐めすぎたか。そう思うのと同時に、ちくり、とカミュの心が痛む音がした。最初は小さかったはずのその傷は、次第にじわじわと広がっていった。カミュは苛立ちを感じた。何故こんな些細なことに、自分が心惑わせられなければならないのか。
セシルに苛立ちをぶつけて解消するべく、カミュはセシルに迫る。セシルは反射的に身体を引いたが、追い詰められ、やがて壁にぶつかった。カミュは壁に手をついて、セシルを見下ろした。
「……そんなに、俺のことが嫌いか」
だが口から出たのは、自分でも全く想像していない言葉だった。自分は今一体何を――自問する前に、セシルが傷ついたような表情で、抗議めいた声を出す。
「嫌っているのはカミュの方です! カミュはいつもワタシに冷たい、だから……」
ああ、とカミュは心の中で溜息をついた。まさかセシルをこんなにも傷付けていたとは、そしてその事実に、自分がこんなにも動揺するなんて思いもしなかった――
「――ああ、嫌いだとも」
目を細め、冷たい声でそう告げていた。セシルのエメラルドグリーンの瞳が、驚いたように見開かれる。その瞳が徐々に悲哀と絶望の色を帯びていくのを見ながら、カミュは忌々しげに舌打ちをした。
「俺の心を乱す貴様など……!」
セシルの口から何か言葉が洩れ出る前に、カミュは素早くその唇を奪っていた。これ以上、自分に対するセシルのどんな言葉も聞きたくなかった。
唇を貪りながら、カミュはセシルの下半身へと手を伸ばした。ズボン越しに人撫ですると、みるみるうちに硬くなっていくのが分かって、カミュ自身も驚いた。唇を離してやると、セシルは頬を真っ赤にして、顔を俯けていた。この変化に驚いているのは何より自分自身なのだろう。
「これはどういうことだ? 説明しろ、愛島。まさか俺に欲情したとでも?」
「チガウ! そうじゃない、そうじゃない……」
「ならばこれは何だ。随分苦しそうではないか」
「ちがう……ワタシは、ワタシは……」
セシル自身も、この変化を受け入れられてはいないのだろう。カミュはズボンのジッパーをやや乱暴に下ろし、苦しそうだったセシル自身を解放した。熱を帯びて自己主張するその部分に触れてやると、セシルの身体がぴくぴくと動いた。
「やめ、て……ください……カミュ……」
「断る。貴様から訳を聞くまでは」
カミュは手を動かしながら、セシルの都合の良い答えを望んでいる自分自身に気付いて吐き気がした。いつから自分はこんなに他人に馴れ合いを求めるようになったのか。他人の好意を求めるようになったのか。問いを繰り返しても、答えは出ない。だがその答えは、既にカミュ自身も掴んでいるような気がした。
「ぁ、っ……ダメ……もう……ぁあっ」
カミュの手がセシルのペニスを掴んで往復する度、セシルは思った以上に敏感に反応した。電流が走ったように身体を震わせ、微かに喘ぐ。目には涙が浮かんでいた。その表情を見ていると奇妙な気持ちがまた込み上げてきて、カミュは再び唇を掬うように奪い取ってしまう。
「っ、んんっ……」
柔らかな皮膚を擦り合わせるたび、セシルの吐息がカミュの頬を撫でる。それがこの上なく心地よかった。手の動きを速くすると、セシルの身体が一段と大きく波打った。
「うっ、あ……!」
カミュが唇を解放するのと、セシルの先端から白濁液が飛び出すのとが同時だった。その勢いは強く、カミュの衣服にまでかかってしまう。
セシルは絶頂に身を震わせた後すぐにそれに気付いて、ばつの悪そうな顔をした。カミュはいつものように眉を顰めたが、今までにないくらい自分が興奮していることに気付いた。
「ご……ごめんな、さい……ガマン、できなかった……」
セシルが掠れた声で謝っていることすら、カミュの欲情を煽った。
「愛島」
壁にもたれたセシルにぐっと顔を近づけると、セシルは怖がるように目を瞑った。耳元に唇を寄せ、とびきり低い声で囁いてやる。
「貴様、いつからそんな煽り方を身に付けた。まさか俺以外の相手の前で、こんな姿を晒しているわけではあるまいな」
「そんなことっ、ありません! こんなこと、されたのは……カミュが、はじめてです……」
はじめて。その甘美なる響きに、カミュは思わず酔いそうになった。セシルは真っ赤になったまま、瞼を伏せて俯いてしまう。
何よりカミュが驚いたのは、セシルにはどうやら逃げる気がないらしい、ということだった。自分が彼自身を弄っていた時も、腕や足は使える状況にあったというのに、それを抵抗のために使うことは一切なかったのだ。まさにされるがままの状態だった。カミュは改めて、至近距離でセシルに問う。
「先程の答えを聞いていないぞ、愛島。何故欲情した。それに、」
カミュは一旦言葉を切って、一段と声のトーンを下げる。
「――何故、俺に抵抗しなかった」
セシルはぎゅっと唇を噛み締めていた。譲れない思いがあった時に見せる仕草そのものだった。カミュは何もせずに、根気よくセシルの言葉を待った。こんなふうに相手の反応をじっと待つのは、女王以外の相手の前では初めてのことだった。
「…………から」
「何だ? 聞こえないぞ、もう一度」
「カミュは、キライ、じゃない……だから……」
心から待ち望んでいた言葉を言われてしまえば、もう我慢できなかった。ぐいとセシルの手首を掴む。痛そうに顔を歪めるセシルに、カミュはいつものトーンで言い放った。
「俺の寝室に来い。今すぐにだ」
「な、なぜ……?」
「無粋な奴め。言われなくても分かっているだろう」
そう言うと、セシルは再び顔を赤らめた。
「それに」
カミュはセシルの身体を引き寄せて、わざと身体を密着させる。自身の猛りが、セシルによく伝わるように。セシルは案の定気付いてはっと顔を上げた。
「カミュ……アナタは」
「俺が貴様にそうしてやったように、貴様も俺を鎮めてくれるのだろうな?」
セシルは俯いて、ぐっと唇を噛み締めた。しばらくして、やがてセシルが微かに頷く。
それを見てから、カミュはセシルを引っ張って寝室へと連れて行った。
カミュの部屋にあるベッドは、男が二人寝ても平気なほど大きいものだった。
セシルにベッドに横たわるように言った後、カミュはローションや指を使って馴れさせた。実際の経験はさほど多くはなかったが、作法くらいは教養として身に付けている。セシルが新たな快感に身を打ち震わせる姿を見て、カミュの頭は沸騰しそうなくらい熱くなっていた。
セシルを四つん這いにさせ、カミュは後ろから覆い被さるようにして、赤黒く膨張したペニスをゆっくりと沈めていった。少しずつ奥へと入っていくたびに、セシルが顔を歪めて声を上げる。
「い、たい……カミュ、もっと、やさしく……してください」
「ふん、軟弱者めが」
「そんなこと、言ったって……ワタシ、はじめてなのに……」
涙声を出されてはたまったものではない。カミュは溜息をついて、後ろから囁くように言った。
「仕方がない。愛島、痛ければそう言え。加減してやらないでもない」
「わ……かった」
カミュは慎重に、セシルの身体へと自身を埋めていった。少しずつ押し進めるたびにセシルはいたい、と声を上げたが、徐々にその声に甘い響きが混ざり始めたのに、カミュは気が付いた。
「ぁ、あぁっ……カミュ、ダメ、もう……」
「そんな声で啼くな。馬鹿者めが……」
セシルの声はあまりに扇情的すぎていた。カミュもそろそろ限界が近づいてきたのを感じた。ペニスが膨れ上がる。セシルの締め付けに顔をしかめつつも、それすらも心地よいと気付いてしまう。
「カミュ、ダメです……ワタシ、ヘンになってしまう……」
「何を言っている。今更だろう、そんなことは」
「っ、うぅ……も、ワタシは……」
セシルは我慢できないとでもいうように、右手で自分のペニスを擦り始めた。そのゆるゆるとした手の動きに、カミュの中の何かが弾けた。
加減してやらないでもない、という言葉など、既に頭から吹っ飛んでしまっていた。楔のように腰を打ち付けると、セシルがひぁっ、と声を上げて、手の動きを止めた。
「カ、ミュ……ダメ、もっと、やさしく、ぁ……!」
「貴様のせいだ、愛島。貴様がそんなにも煽るから……!」
カミュの表情からは、いつもの涼しげな余裕がとっくに消え失せていた。滲み伝い落ちていく汗を拭うこともなく、ただただ、欲望のままにセシルを求める。
「愛島、ッ」
苦しげに名を呼んで、カミュは思わずシルクパレス語で口走っていた。
“お前が、愛おしくてたまらない”
そう告げたのが合図のように、セシルは身体を反らせて一段と高い声を上げた。カミュも絶頂を迎え、セシルの中で達してしまう。どくどくと脈打つようにして、カミュのペニスから熱い欲望の塊が放出されていく。受け止めきれない分は滴り落ちて、カミュのシーツに染みを作った。
軽くシャワーを浴びた後、カミュは白いバスローブを羽織り、一旦部屋に戻った。
ベッドには、既にシャワーを浴びて着替えた後のセシルが背を向けて横たわっていた。カミュが戻ってきたと気付くとこちらに身体を向けたが、今度はカミュの方が視線を逸らした。
「貴様は今日ここで寝ていろ。俺は向こうに行く」
「待って……ください。カミュはどこで寝るのですか?」
「さあな。少なくとも、貴様が気を揉むようなことではない」
そう言って身体を翻しかけたが、セシルにバスローブの裾を掴まれて、邪魔される。
「ワタシが邪魔なら……そう言えばいい。ワタシ、自分のベッドに戻ります。だから」
「何度も言わせるな。貴様、その身体では動けんだろうが」
あ、とセシルが小さく声を上げて、微かに頬を赤らめた。カミュは深く溜息をついて、煩わしげにセシルの手を振り払おうとする。
「その手を離せ」
しかし、セシルも頑固だった。掴んだまま、一向に離そうとしない。
「イヤです。ワタシ、もっと端に寄るから……カミュも、ここで寝て欲しい」
「何を血迷ったことを。寝られるわけがなかろう、貴様と一緒になど……」
「でも! ワタシのせいで、カミュがベッドで寝られないなんて……そんなの、イヤです。カミュがここで寝ないなら、ワタシがどきます!」
「そんな身体で動けるわけがないだろうに、何を……!」
「でも、このままはイヤです!」
セシルは唇を噛んで、カミュをじっと睨み付けた。それはいつものように、譲れない思いがあった時に見せる仕草そのもので、カミュはむ、と押し黙ってしまう。こうなると、セシルは絶対に折れようとしない。だからカミュが仕方なくセシルの意見を汲んでやるのが常だった。
「……仕方がない。そこまで言うなら……今日だけだぞ、例外はないからな!」
「……ああ、よかった」
セシルは心底安堵したように、柔らかな笑みを見せた。全く都合の良い奴だ、と心の中で悪態をつきながらも、その笑顔から目が離せないでいる自分に気付いて苛立ちを感じた。
カミュは溜息をつきながらベッドの中に入って、セシルからは背を向ける。向き合えば、これ以上自分がどうにかなってしまいそうで怖かった。こんな感情を抱くのは生まれて初めてのことだった。忌々しいと思いながらも、手放せないものがあるということを、カミュは初めて思い知っていた。
「カミュ……一つ、きいてもいいですか?」
背後から小さな声が聞こえる。
「何だ」
「最後……カミュは、日本語ではない言葉を口走っていました。あれはシルクパレス語? 一体どういう意味なのですか?」
その時のことを思い出して、カミュの心臓が不覚にも大きく跳ねる。動揺を悟られないようにしながら、いつもの冷たいトーンで言い放った。
「……“貴様は不慣れなせいで、手が掛かりすぎる”と、そう言ったのだ」
セシルが一瞬鋭く息を呑んで、やがて溜息をつく気配がした。
「それは……仕方がないこと。だって、あんなこと……初めてだった。それに、痛くしたのはカミュです」
セシルが口を尖らせている様子が目に浮かぶようだった。カミュはその言葉を無視して、ふん、と鼻を鳴らした。
「いい加減早く寝ろ。明日動けなくなっても知らんぞ」
「……動けないのは、カミュのせいです」
「黙れ! 俺は眠いのだ、それ以上喋ったら……どうなるか分かっているだろうな」
「……わかりました。黙ります」
不服そうではあったが、そこで一旦セシルは黙ってくれた。内心安堵の溜息をつきながら、カミュは髪を掻き上げて途方に暮れた。困ったことに全く眠くないのだ。その原因は隣に居るセシルだと分かっているから、尚更焦る。
――全く。何故俺がこんな思いをしなくてはならんのだ……
心の中で忌々しげに呟きながらも、カミュは自分がさほど不快感を感じていないことに気付いて、小さく舌打ちをした。
気付いたらえろを書いていた……だって「2人縄跳びと絆創膏」のトラックがあまりにえろすぎるのが悪い(責任転嫁)(2011.10.30)